記憶力というのは、どんどん低下していきます。
悲しいかな、僕も少しづつ低下しています。昨日食べたもの、昨日見たもの、昨日話したこと、テレビ。日常を過ごしていると、膨大な量の情報が右から左へと通り過ぎています。
どうしたら、脳にとどめられるか?
幼い頃にやったことというのは、忘れないと言われます。或いは、一度きっちりと習得したものというのは、体が覚えている。脳に記憶されていて、それを引き出しやすい。
繰り返しやったこと、強烈なインパクトがあったこと、嫌だったこと、興味をもって自分からやったこと、自分の中で重要だと思っていること、長年やっていること。
挙げればも少しあるかもしれませんが、こういったところでしょうか。
逆に記憶に残らないもの
短い時間しかやっていないこと、最近のこと、興味のないこと、インパクトのないこと、嫌いなもの。
70代の男性Sさんが施術中に、記憶に関するお話をしてくれたんです。
「歳を重ねると、記憶力が悪くなるんですけど、記憶力とどめる方法が自分なりにわかったんですよ。」
こんなことをおっしゃっていました。
Sさんは、趣味でバイオリンをやっています。新しい曲をやる際に譜面をみないそうです。音を録音して、それを再現して演奏をするそうです。
当然、難しい曲は1回ではできないそうです。当然、記憶にも残らない。ただ、全く覚えていないわけではない。再現はできないけども、聴いたことがあるという記憶はある。
そうすると、それを何回もくりかえす。そうすると、脳にインプットされ、できるようになる。
例えば、30分練習するとして、15分を2回するよりは、3分を10回するほうが記憶に残る。とのこと。興味がある、好きであるということが前提ですが、記憶に残りやすいことをやっています。
「脳に細かな傷を残すんです。」
これが、すごく興味深かったんです。脳に記憶を重ねるのではなく、傷を残す。
医療に携わっていると、脳に傷を残すという言葉にすごく引っかかります。
最近、「脳が痛みを記憶する」といわれています。
慢性の痛みになると、脳が痛みを記憶してしまい、その場所が悪くなくても、ちょっとした刺激やストレスで、痛みを自覚する。或いは、なんてことはない痛みも、強く痛みを感じる。
先ほどのSさんの話と照らし合わせると、慢性の痛みというのは、日々積み重なる小さな刺激です。それを繰り返すと、脳が記憶してしまう。より強くインプットされてしまう。Sさんの言い方でいうと「脳に傷を残す(実際に傷ができているわけではありません)」ということになります。
忘れられないものとなるということですね。なので、慢性の痛みというのはとても厄介ということです。
記憶を残すというところで述べたのと照らし合わせると、
「繰り返しやるということ」=「繰り返す痛み、ストレス、刺激」
「自分の中で重要だと思うこと」=「痛み、ストレスというのは、自分の中でも重要なものの一つです」
「興味を持って自分からやったこと」=「常に気になるので、嫌顔でも興味がわきますよね」
こういったイコールが成り立ちます。
逆に良くするには、どうすればいいかです。これは治療中でも繰り返し言っているのですが、
・いい状態を積み重ねる
・気持ちがいいことをやる
・楽しいことをする
・リラックスする
・自分から行動を起こす
・治してもらうではなく、治すと思う
こういったことが挙げられます。何も症状のない方は、簡単やん、当たり前やんと思うかもしれません。しかし、これが難しい。
慢性痛のある人は、そもそも痛みにフォーカスされていて、全てがネガティブな方向に行っています。それをプラスに持っていかないといかないので、すごく大変です。
鍼灸治療は、こういったキッカケになります。
いきなり痛みがゼロになるわけではありませんが、一時的にしろいい状態になります。ようはそれを積み重ねる。
少しでも楽な状態になると、自分から行動を起こせるようになります。そうすると、脳がプラスの方向に働いてきます。体がいい状態になれば、脳もいい状態になります。脳がいい状態になれば、体にもフィードバックされますので、体も良くなってきます。
地道にいい状態に持っていき、脳に刻まれた痛みを少しずつ、消していく。
鍼灸治療のメリットは、コミュニケーションをとる時間が長いこともプラス要因になります。病院で揶揄される3分診療ではありません。
下手したら1時間喋りっぱなしの患者さんもいらっしゃいます。そんな中で、患者さんの中にあるモヤモヤ、うっぷんストレスを吐き出していただければ、それだけでもスッキリします。
だからといって皆さんがよくなるわけではありませんが、話を聞いて、治療をして、少しでもいい状態になれば、次の治療の手助けになるはずです。
Sさんと話ながら、人間の持つポテンシャルの高さを実感した次第です。
こんな話を、興奮して嫁に話たら、何を今更言ってんの?というような顔でした。(笑)